【新社長インタビュー2024】ドリームベッド 代表取締役社長 三宅弘人 氏 前職の経験活かし、2つの顔で業界へ

マルチブランドカンパニーを目指し、製品もマルチチャネルへ

――ご就任おめでとうございます。早速ですが、ご就任にあたっての抱負をお聞かせください。

三宅 はい、新社長になったことで何かを革命的に刷新するというよりは、当社の根底にある「基本理念と、ミッション」は不変のまま、それをブレークダウンした「ビジョン、バリュー」を明確にして共有していきたいと考えています。

私たちの基本理念は、『夢をはぐくむひとりひとりに、快適で美しい暮らしを提供します』というものです。ミッションは空間と環境を合わせた造語で「空環創造宣言」でどちらも20年以上掲げてきています。お客様ひとりひとりにとってやすらぎ、くつろげる空間と環境をつくっていくことを使命としています。そして今回これらを具体的にブレークダウンして、私たちの強みや企業価値であるバリューとして、「世界のブランドを、日本の技術で、すべてのお客様に届ける空環創造・マルチブランドカンパニー」を掲げました。また、企業のビジョンとして、今年で創業74年の当社が「100年を超えて長期安定的に成長し、企業価値を高め、社会に貢献出来る会社」としていきたいと思っています。

――次に、三宅社長のご経歴についてお伺いしたいのですが、元々は他業種でご活躍されていたとお聞きしています。

三宅 私は岡山県で生まれ、大学から東京に移り、その後三井不動産に32年勤務して3年前(2021年)にドリームベッドに入社しました。私の妻の祖父が創業者なのですが、妻の父である渡辺博之元社長が7年前に他界し、そのあとを継いだ小出克己前社長から「当社にない他業界での経験を活かして今後の成長を担ってほしい」とお声がけをいただいたのがご縁です。

私のいた三井不動産が開発する三井ガーデンホテルのベッドはほぼすべてドリームベッドのものです。また、住宅購入者向け販売も含めると当社の重要取引先で、その時からの縁もあって、55歳の時に入社しました。しかし当社は2021年に上場したパブリックカンパニーであり社長になる保証はありませんでしたが、3年間皆さんに育てていただいて社長になれた時は、正直うれしかったですね。

当社の社長として、私には2つの姿があると思います。1つはパブリックカンパニーの社長の顔、もう一つは創業一族につながるものとしての理念を持った社長の顔です。家具業界には国内外ともに同族経営の会社様が多くいらっしゃるため、創業一族ということが信頼につながり気持ちが通じ合う点も多いのではないかと思います。このような両方の顔の良さを活かしながら経営にのぞんでいきたいと思っています。

――三井不動産ではどのような仕事をされていたのでしょうか。

三宅 ゼネラリスト志向の会社なのであらゆる業務を経験させていただきました。最初のころは、マンションの企画開発、販売をやりました。その後、ららぽーとなどの商業施設の開発運営にも携わりました。最後には、ITを活用した街づくりのスマートシティの運営も経験することができました。今の仕事に役立っている点は、ホテルなどの業界の方との営業人脈、不動産業界での経験を活かした出店の推進、マンション事業やスマートシティで学んだ、ITを活用したマーケティングやCRMの経験が活かせます。

――ありがとうございます。多くの読者様が御社についてご存知だと思いますが、三宅社長はドリームベッドをどのような企業であると捉え、何が強みだとお考えでしょうか。

三宅 当社の強みは、世界のマルチブランドを取り扱っているという点です。具体的には、当社のドリームベッドブランドに加えて、Serta(以降、サータ)、Ligne Rose(以下、ロゼ)、RUF BETTEN(以下、ルフ)などのブランドです。これらの製品は輸入販売ではなく、パテントを取得して当社の工場で製造しております。これにより、例えばサータのベッドは一週間程度で、ロゼも1か月から2か月程度でお届けが可能です。もし製造ではなく輸入に頼った場合、より多くの月日を要します。また、パテント製造であるがゆえに今日のような円安の時代でも、大きなコスト変動を伴わずお客様にご提供できる点も強みと言えましょう。

現在、家具店様への卸売りから、リーン・ロゼショップ、そしてECなど多様なチャネルで製品をご提供しています。このような自社ブランド、海外ブランドを大規模に、マルチチャネルでご提供している事が、他の同業メーカー様と大きく異なるポイントではないかと考えております。

このように多様なブランドを扱うメリットとして、サータの高機能マットレスと、比較的リーズナブルなドリームベッドブランドのベッドフレームを組み合わせるなど、ブランド間の横断提案も可能です。同様に、ルフはフレームの優れたデザインをご評価いただく事が多く、サータやドリームベッドのマットレスを載せてご購入いただくケースも多くみられます。また、ロゼは現在我々の唯一のインテリアブランドですが、数十か国にライセンシーが存在する中で、製造を許されているのは当社だけです。
 
――直近の業績についてお教え頂けますでしょうか。

三宅 前期は残念ながら減収減益でした。しかし、前期末の取り組み効果が出始めており、第1四半期(2024年4~6月)では、前年比を超える業績となりました。結果として、通期予想も大きく上方修正としました。主力の家具店卸売りは新製品投入効果等で回復基調にあり、ホテルなど商業施設向けの需要回復もさることながら、ロゼの絶好調も大きな要因です。ロゼだけで見ると、前年の約1.5倍の売上を達成しています。そのような業績回復も相まって、株価も回復して参りました。当社の株を1年以上保有すると、最大30%割引で製品購入するといった株主優待施策も好評のようです。

――リーン・ロゼが好調の理由を教えてください。

三宅 製品、プロモーション、販売ルートがリンクした施策が要因です。新製品として、主力のソファの50周年記念モデルを販売しました。プロモーション面ではSNSでインフルエンサーにより紹介が行われ、注目が集まった機を逃さず、その方とのコラボレーション企画にすかさず取り組みました。販売ルートとして直営店を新規オープンしました。これら複合的要因が奏功し、好調につながっていると分析しています。

リーン・ロゼショップは、東京の銀座、六本木、新宿の3店、大阪、福岡にあります。大きな商圏に挑戦し続けるべく、名古屋にも新たに出店しました。また、商品の強化も行われました。昨年(2023年)でROSETTogo(以後、ロゼトーゴ)は50周年を迎え、これを記念して、デザイナーのとんだ林蘭さんがデザインした生地を採用したモデル「TAMESHIGAKI」を発売しました。これらの施策が爆発的なヒットを生んだことも好調に寄与しております。

――松重豊さんを起用されたことでも注目を集める、フルオーダーマットレスに取り組みはじめた背景を教えてください。

三宅 地元の広島大学大学院の田村准教授など複数のアカデミアと共に、学術指導を受けながら製品開発を行っています。寝具を決めるポイントとして、体圧分散や寝姿勢があります。マットレスの固さと体圧分散、寝姿勢とマットレスの厚さの相関関係、個人の嗜好を調べ、このような研究結果をもとに製品開発をしています。

その最たるものが、世界で一台だけのフルオーダーマットレスをつくる、「ザ・ドリーム」です。ご来店されたお客様の体形をレーザーではかり、蓄積したデータから、そのお客様に最適なコイルの配列を導き出し、それを再現したもので寝て頂くということを始めました。そこからお客様の好みを取り入れ、微調整をして世界に一台だけのマットレスをつくります。受注生産のため納品まで約1か月かかりますが、納品後3か月お試しで使って頂いた上でご満足いただけなければ無償で作り直しもお請けするサービスです。自信をもって送り出している我々の知る限り日本で唯一のサービスです。

フルオーダーマットレスの計測機器は、現在東京と名古屋にあり、次に大阪に展開を考えています。このような機器を用いて、ハイエンド製品をご要望のお客様のニーズに対応しながら、どのような製品を好まれるのかといったデータ収集を行い、次なる製品開発に繋げたいと考えています。また、ドリームベッドはそういったきめ細かな対応ができるのだというイメージを定着させる、ブランド戦略にもつながっています。

フルオーダーマットレスは、計測器がないため、現在家具店様では展開できません。いずれ簡易版計測器を用意し、展開することもあるかもしれません。今、私たちのショールームで計測だけ行い、一部の家具店様にて販売展開をする取り組みは始まっています。

また、私たちは他社様と比べて認知度に課題があると捉えています。そのため、松重豊さんをイメージキャラクターとして採用しました。本物にこだわる大人が満足できる商品を提供しているという意味で、松重様にお願いをしました。このおかげで、認知度調査をすると飛躍的に向上しました。

――日本橋のショールームは昨年末にオープンしたと記憶しています。その効果はいかがでしょうか。

三宅 今まで私たちの首都圏の拠点は、渋谷にショールーム、新横浜に営業所がありました。私たちの売上の大半は関東圏ですので、このエリアを強化すべく2023年の12月に日本橋へショールーム兼東京支社を移転させました。これは大きな戦略転換となりました。なにより、このような場に拠点を構えられるということで、お客様からのブランドの信頼度の高まりを感じられるようになりました。

また、これまでは家具店様向け、ハウスメーカー様向け、コントラクト市場向け、そしてリーン・ロゼショップなど、バラバラの拠点展開でした。これを一か所に集約し、支社機能を持たせたことで、情報共有などの人的シナジー効果もみられるようになりました。どの部門がどのようなことをやっているかという意思疎通が図られるように変化したということです。また、周辺の百貨店様がお客様をお連れして商談の場として活用頂く、また、多くの企業さんがこの周辺にありますので、法人営業の効率が高まりました。

そしてホテルを筆頭にコントラクト市場は、デザイン事務所、デザインコンサルといったプレイヤー様が中心です。日本橋に拠点を設けることで、お客様との来店や打ち合わせがより活発に、よりスムーズになったという利点もあります。

リーン・ロゼジャパン専用モデル投入 新ブランド発掘で第二のロゼ、第二のサータへ

――ありがとうございます。この下期、そして次の年度に向けた取り組み、業績見通しを教えてください。

三宅 販売促進として、CRM強化を掲げております。これはすなわち、エンドユーザー様との関係強化を図るということです。お客様を知らないメーカーにいい製品は作れません。従来、私たちの製品は家具店様に卸して、家具店様がエンドユーザー様に販売される流れです。しかし私が3年前にこの会社に来た時に違和感を覚えたのは、当社のマットレスなどの製品がどのようなエンドユーザー様に買われているのか、社内でしっかりと把握が行われていなかったことです。会社として、お客様は家具店様だけであるという意識が強かったと思います。

しかしそれではこれからの時代やお客様に合った良いものはつくれません。お客様の信頼は家具店様はもちろんのこと、私たちの製品を買って頂くという点では、メーカーにも信頼がなければなりません。今こそこの信頼、関係を強化しなければならないと考えております。

具体的には、当社の製品を買われたお客様に、電化製品のように購入者登録をして頂き、ご意見のフィードバックをお受けするようにします。フィードバックのご提供に対して当社は、製品の延長保証や割引、情報提供などを行います。そしてお客様から許諾を頂いた上で、ある家具店様で買われたお客様はこのようなお客様なのですよ、という情報共有を行い、イベントのご案内に活用頂くといった取り組みを今期からやっていきたいと考えております。

また、製品展開についての展望を述べますと、2023年度の上期にサータの最高級モデルシリウスを発表し、下期にはサータの基幹モデルとしてスイートシリーズという新シリーズの発表も行いました。年一回、サータも新モデルが発表となりますし、ドリームベッドブランドは、去年フルオーダーマットレスを投入しました。既存モデルも年に1度の発表を予定しております。リーン・ロゼはトーゴの50周年、プラドの10周年モデル、カランの30周年モデルを投入していきます。

日本はリーン・ロゼブランドとして成功のモデルとなっています。これを受けて当社は現在、フランス本国と連携して、日本専用モデルの投入の打ち合わせを進めております。これはこの下期から来年上期に予定しています。ジャパン専用モデルは、ダイニングテーブルやチェアにおいて、日本のテイストを入れたシリーズを目指します。リーン・ロゼはどうしてもソファのイメージが強いのですが、同ブランドではリビングダイニングも展開しており、市場の中でブランドを広げていきたいという考えもあります。

また、サータもリーン・ロゼも、40年以上前にライセンスを取得しました。しかしそれ以来(ブランドは)増えておらず、課題としておりました。そのため、私の大きな役割の1つとして、マルチブランドカンパニーとしてベッドとインテリアのブランドを新たに取り入れる、ということがあります。言い換えれば、第二のロゼ、第二のサータという位置づけです。現在交渉を続けている先もあり、来年度には稼働を目指したいと思っています。

販売チャネルもさらに拡大させ、今期には自社ECサイトを立ち上げます。そして来期には、海外への輸出にトライしたいと思っています。特に成長が著しく、為替の影響が比較的少ない東南アジアを考えています。今期の目標は売上105億、来期は110億を目指します。好調に推移しておりますので、このままでいくと今期の達成は見込めると考えております。

――これからの展望、取り組み、業績についてご説明ありがとうございます。リーン・ロゼといいますと、ソフトなデザインが思い浮かびますが、ジャパン専用モデルもそのような意匠を継続したものとなるのでしょうか。

三宅 リーン・ロゼは様々なデザイナーにより生み出されています。ブランドの持つ世界観を基軸に、新しいデザインの発想を取り入れていくことで顧客層を広げていくという考えがあります。今は若年層のファンが多くいらっしゃいますが、より多くの年齢層に愛されるものにしていきたいと思っています。ジャパン専用モデルも、その考えを基にデザインされる予定です。

――自社EC展開のお話もありましたが、まずリーン・ロゼはドリームベッドブランドとは異なり、直販展開をされています。これは何かお考えあってのことなのでしょうか。

三宅 まず、製造卸会社として我々をここまで育ててくださったのは全国の家具店様を中心とした業界の皆様であり、ここが最も重要であることは、これまでも、これからも変わりません。ショールームは家具店様に置ききれない当社商品を紹介して、家具店様の売上をサポートするのが原則です。

一方、リーン・ロゼがなぜこのような形態かと言いますと、ライセンス元のフランス本国の方針として、ライセンシー、つまり私たちがただ卸すだけの商売を認めておらず、ライセンシー自身が店舗をつくり、ブランドを確立した上で卸売りするという、直営スタイルを条件付けています。直営店でブランドを確立させてからその地域の家具店様に卸を行っています。そのような卸先の家具店様は、全国で約50社あります。

――最後になりますが、今回自社ECを展開される背景をお教えいただけますか。

三宅 ベッドは体感型の商品であり、お客様のほとんどは家具店様で試して購入するので、それほどECの比率は高くありません。それでも自社ECサイトを作る大きな理由は、プロモーションとして考えています。ネット上で、メーカーとしてのブランディングを意識したサイトを立ち上げ、そのような販売露出をすることで、私たちの製品をもっと知って頂く効果を期待しています。もちろんお客様の中にはどうしてもメーカーからご購入されたい方もいらっしゃいますが、基本的には家具店様のEC販売もあるので、共存共栄でいきたいと考えています。

――本日は長時間にわたり、お話を頂き誠にありがとうございました。

(聞き手、長澤貴之)