【インタビュー2025】Flavor 代表取締役 山本哲也 氏 実店舗展開拡大中 オウンドメディア、開かれた情報で「Re:CENO(リセノ)」ファンを獲得

家具インテリアブランド「Re:CENO(リセノ)」を運営するFlavor(フレーバー:京都市中京区、山本哲也代表取締役)。この4月には初の新卒スタッフも入社予定など、企業および店舗展開の規模を拡大している。代表の山本哲也氏に、Re:CENOのマインドとこれからの展望を聞いた。

――初めに、山本代表のご略歴についてお伺いできますか。

山本 大学を卒業後、アパレルやアクセサリー、そして家具を販売するインテリアライフスタイルショップに就職し、そこで約5年勤務していました。神戸で半年、京都で半年、熊本で3年、東京で1年。しかしある時にその企業の事業部が無くなってしまい、会社都合での退職となりました。その後、職業訓練でITの勉強をし、ホームページの制作会社で中小企業むけのWEBページ制作などを手掛けていたのですが、ちょうどその頃にRe:CENOの事業をスタートしていました。

その後また、勤めていた企業が閉じることになり、Re:CENO事業を本格的にスタートするために、社内メンバーに声をかけるなどして当初3人で始めたのがFlavorの事業の始まりです。現在は約70人の従業員規模にまで拡大しています。

Re:CENO吉祥寺店

――今日は「Re:CENO吉祥寺店」のオープン初日ということで、開店直後からユーザーの方々が多くいらっしゃっています。オープンに向けた告知なども多方面に行われたのでしょうか。

山本 おかげさまで、昨年の青山店オープンの際もそうだったのですが、開店時間前から待ちきれず、並んでお待ちいただいた方も多かったです。SNSでの投稿やオウンドメディア、WEBサイトでも記事を作りながら、オープンに向けての情報発信をしてきましたので、それによる認知は上がってきていると感じています。

――今後、首都圏を中心に実店舗を10店舗程度にまで増やしていかれたいとのお考えですが、まずECでの販売を出自とされているなかで、このように実店舗の展開を拡大されている背景についてお伺いできますか。

山本 この業界で当社はかなり珍しいケースだと思っているのですが、当社は売上シェアの約8割がECによるもの、そして残りの2割が実店舗によるものといった構成内容です。この業界では、例えば経済産業省のデータなどを見ていますと、実店舗の売上が全体の7割ほどであるのが一般的で、ほとんどの方が実店舗で家具を購入されているということではあります。

それに対して我々はEC発の強みもあり、ECで売上を獲得していくことに変わりはありません。他の企業、特にインターネット販売をされている企業さんは、安価な家具を販売しての売上がほとんどというパターンが多いのですが、当社は比較的値段の高い家具を販売してのEC売上8割という、ある種いびつな売上構成になっています。

当社は創業から10年ほどの期間は、比較的安価な家具を販売してきた流れでEC運営を手掛けてきたのですが、今は会社の売上における主要な人気商品をみると、一つ一つの単価はその当時よりも圧倒的に高くなっています。したがってECに偏重するよりも、実店舗の運営にもしっかり舵を切って、ゆくゆくはECと実店舗の売上構成比が5分5分ぐらいのシェアにしていきたいと計画しており、その目標のために着実に実店舗を増やしている段階です。

――今後、あと5店舗ほど首都圏に増やされる予定なのですね。

山本 基本的にはドミナント効果を狙って、首都圏や大阪に実店舗を増やしたいと思っています。人口が多いエリアを中心に、どんどんと認知度を広げていきたいですね。

実際に店舗運営に投資をする中で、実店舗で商品をご覧になったお客様が、楽天さんなどのECモールでショールーミングしてお買い上げいただくというケースも非常に多いです。店舗のスタッフが一生懸命2、3時間お客様とお話してプランニングして、最後はECモールでご購入いただくことにはなるのですが、今の時代、最終的にどこでお買い上げいただくかはお客様次第です。したがって、「お客様への営業はリセノの店舗だけで」という意識はあまりありません。「家に帰って検討します」とおっしゃられたお客様が、後にECモールで当社の商品をご購入していただくケースは多いですね。

――今、Re:CENOがターゲットとしている顧客層についても伺えますか。

山本 おおよその年齢層ですと30代の女性が圧倒的です。20代の方もいらっしゃいますが、比率は少ないですね。やはり当社の商品、家具の価格帯によるものでしょう。30代以上の方では、ご結婚で家を建てられるといった機会、タイミングに合わせて良い家具を購入したいということで、当社の商品を検討していただく方が多くいらっしゃります。

当社はYouTubeの制作などにも力を入れていますが、YouTubeの当社アカウントのメインターゲット層は40代や50代の方々で、年齢が高くなればなるほど、豊かな暮らしを求めて興味を持たれるお客様が多くいらっしゃると感じています。売上のメイン層は30代、そして順に40代、20代、50代といった順番になりますね。

――Re:CENOの家具のデザインは、社内スタッフの方が中心となってデザインされているのでしょうか。

山本 基本的に、売上のメインどころは全て自社生産品ですので、いわゆるSPA(製造小売業)のスタイルです。したがって、他社が介入している商品があまりありません。製造拠点は中国や東南アジアなどで、デザインは私を含め、プロダクトデザインのメンバーで協議をして開発しています。そのため、家具のテイスト、デザインに対するイメージはスタッフ間でも近しいと認識しています。

――少し話は変わりますが、FlavorではWEBサイトでのオウンドメディアを積極的に展開されています。スタッフの方々など、実名や写真を挙げて情報発信をされていますが、このオウンドメディアによる情報発信のメリットや影響についてはいかがでしょうか。

山本 オウンドメディアの効果は非常に大きく、当社の競争戦略の根幹はこのオウンドメディアによる情報の提供力だと思っています。当社のスタッフでもYouTubeやオウンドメディアなどに出演するスタッフには、家賃補助などプラスで特別に手当をつけているのですが、我々が販売している商品をスタッフの自宅で使ってもらっている様子を撮影して発信しています。

出演するスタッフは15人ほど在籍していまして、出演回数が多いスタッフなどに関しては、インスタグラムなどのSNSで何万人ものフォロワーさんがついていただくなど、スタッフのファンになっていただく方々が増えています。それにより、独立して自らコーディネーター事業を始めているスタッフもいますね。このような考えでの取り組みは、アパレルのBEAMSビームスさんなどに近しいと思っているのですが、社内的な「ヒーロー」「インフルエンサー」を作って、そのようなスタッフが自らの生活と共に、お客様によいものをしっかりと発信しています。

しかしこれは、オウンドメディアの活動としては一部にすぎません。当社は今年から教育事業を開始する予定で、2冊目の書籍出版を6月に控えています。そして夏頃には、「eラーニング」、動画を見て学ぶことができるような、ラーニングマネジメントシステムを導入します。家のお部屋作りに関するスタイリングの手法を勉強するための動画アプリですが、これを月額300円で視聴することができるサービスにも取り組んでいく予定です。

社内出役の自宅

――情報を自ら発信していくことで、ユーザーとの信頼関係を強固にしていくということですね。

山本 家具などのインテリア用品は、安価な価格のものでも質は非常に上がってきているので、「安価なものだからダメ、高価だからよい」などのような差があまりなくってきていると感じています。したがって、そのような状況でインテリアのトレンドを追いかけ、売れる商品を開発し、一生懸命おしゃれっぽく見せていくというのは、競争戦略としてあまり成り立たないでしょう。

私は、焦点をそこに置かず、「情報をしっかりと教えてくれるから、あのブランド・お店は信頼できる。だから、あのブランドに共感できる」という世界観で、お客様にファンになっていただきたいと考えているのです。そのため「我々は“物売り”ではなく、“家具インテリアを世の中に広げていく”、それを目指している会社なんだ」というポジションを取りたいと考えています。このような考えのもと、オウンドメディアを中心とし、SNSや書籍など様々な手段を用いて、そのイメージを訴求していますね。

――しっかりと、手に届く価格帯の製品でも、豊かな暮らし空間を作り上げることができるということを提案しながら、ファンを増やしていきたいということですね。

山本 インテリアの専門誌やライフスタイル誌を見ていても、価格が高価すぎる製品や、非常に広大な住宅の特集が多くみられます。しかしながらそのような空間は、一般の人にとっては憧れの世界の話で「実際に自分の家に住んでいるところでは、こんな豪華な空間は作れない」といったように、ある種「夢の世界」を見て楽しむことになりがちだと思います。

一方でアパレル業界に目を向けると、「安価なものでも、しっかりとおしゃれを楽しむことができる」といった時代に入っています。したがって当社は、インテリアの世界も「普通の一般的な価格でも楽しく、おしゃれにできるんだ」という世界に変えていきたいですね。その意味でも、既存のインテリアの情報誌などとはまた異なる道を行くべく、独自のポジショニングを確立していきます。

――次に、製品に関してお伺いしますが、頻繁に商品の入れ替え等はされているのでしょうか。

山本 いえ、一つ一つ丁寧にラインナップに加えていっている形です。例えば当社のソファの売れ筋商品というものは、発売から5~10年以上経っても人気が続いているロングセラーであり、その発売以来新商品を出していませんでした。先日ようやく新作のソファをラインナップに加えたのですが、このように何年かに一回程度しか、新たな追加の新作ラインナップは出していません。

他社ではトレンドに合わせて、毎年新しい製品を出して入れ替えていく企業が比較的多くあります。しかしそれでは「昨年の新作は一体何だったのか」という考えにもつながるのではないでしょうか。私自身、そのようなトレンドに合わせての商品開発の考えが嫌ですし、そのような商品の提案の仕方は「お客様への裏切り」が強いと思っています。

もちろんアパレルなどは、どうしてもトレンド感が強くなってしまいますが、しかし当社は家具・インテリアの世界に属していますから「一つの商品を開発し、これを10年売っていくつもりでやるぞ」というマインドで取り組んでいます。そのマインドが功を奏しているからこそ、お客様のニーズから外れたマーケティングや商品開発が起きづらいのです。一つの商品をしっかりと開発したならば、やはりその商品をしっかりとプロモーションして販売していく。これが、外れの商品が少ない要因だと考えています。

先ほどデザインの話でも少し触れましたが、プロダクトデザインはこれまでほぼ私ひとりでデザインしていたため、時間的な制約もありました。しかし昨今は新たなスタッフとして、プロダクトデザインを行うことができる良いメンバーが入ってきますので、新商品を企画できるスピードは向上します。しかしそれでも基本的な理念として、毎年商品を改廃番するようなことはしません。このようなマインドは、絶えず持ち続けます。

――昨今は人手不足時代とも呼ばれていますが、採用活動で意識されている点についてお伺いできますか。

山本 人材不足が甚だしい時代ではありますが、私自身は様々なことにチャレンジして行きたいタイプです。先ほども申したように、教育事業も手掛けていきたいですし、店舗のスタッフや品質管理のスタッフ、海外担当のバイヤースタッフやデザイナーなど、あらゆるスタッフをしっかりと整えていきたいと考えています。人材が獲得しにくい今の時代ではあっても、おかげさまで多数の求人応募があり、比較的学歴の高い方や、元同業他社のメンバーの方なども来てくださります。この理由については、オウンドメディアの運営などを通じて「たくさんの情報を出していること」が要因だと理解しています。

たとえば、「Flavorは社長が非常に多くのブログを投稿しているし、Flavorのスタッフもそれぞれのメッセージをしっかりと外部に発信できている」といった例のように、たくさんの情報発信・開示はお客様のためのみならず、同じ業界の方々のからの視点からも「取り組んでいることの透明性が非常に高い」と認識していただくことにつながります。この情報発信によって人材獲得を非常に明快に行うことが可能となり、様々なところに良い波及効果をもたらしていることが、採用面で他社と比較して優位に立っている要因であると考えています。

――新卒採用なども実施されているのでしょうか。長く勤務してもらうために心がけていることなどについても教えてください。

山本 事業を始めて17年目になるのですが、ようやく昨年、2025年の4月に入社する新卒向けの説明会を初めて行うことができました。したがって4月に、新入社員が10人ほど入ってくる予定です。これまでは中途採用が主でしたが、フレッシュで今後ずっと働いていただける人材もやはり採用していきたいですね。もちろん、やはりベテラン・プロフェッショナルな人材も獲得したいと考えていますが、中途採用の比率は徐々に減らしていく形になると思っています。

いずれにしても、「長く当社でしっかりと働きたい」と思っていただくためには、しっかりとした情報開示が必要不可欠であると認識しています。したがって私自身、毎週月曜日はスタッフの前で様々なことを話しますし、今取り組んでいる事業の内容についても社内プレゼンなどを行うことで、会社の現在位置をスタッフが把握できるようにしています。また、会社の経営数字などについても、半年に1回は全て開示しています。「これだけの利益があり、これだけの経費がかかっている。決算賞与も出しているから、これを分配して皆さんにはこれぐらいの額を還元できる」といった説明を行うことで、高い透明性の確保に努めています。

――最後に、ユーザーの方々などへのメッセージをお願いします。

山本 先ほども申しましたが、2冊目の書籍をこの6月に出版予定です。1冊目の書籍「センスのいらないインテリア」は家具の配置や家具の買い方にフォーカスした内容で、おかげさまで非常に好評でした(2024年10月時点 1万7500部発行)。新刊はそれに加え、雑貨の飾り方や装飾の部分にかなりフォーカスを当てた内容としています。当社は「インテリアの楽しさを、もっとたくさんの人に。」「ふつうのお家を、美しく。」をビジョンとして掲げており、そのビジョンをこの1冊に詰め込んだ内容にもなっていますので、是非期待してお待ちいただければと思います。

そして、同じく2025年の夏頃にはオンラインスクール、ラーニングマネジメントシステムの教育事業も開始します。店舗でもセミナーなどを実施したり、実際にディスプレイの方法をお客様にお教えしたりといった取り組みを本格的に始動予定です。家具インテリアの小売事業という面でも期待していただきたいのですが、インテリアの知見を世の中に広く拡充する活動についても、ぜひご期待いただきたいと思っています。

――お忙しいなか、インテリアについての考え方から事業運営まで、多岐にわたりお話いただき、ありがとうございました。

(聞き手 佐藤敬広)