【インタビュー2025】最近の住空間提案と家具産業 河﨑由美子 氏 × 中村孝之 氏

ライフスタイル提案の専門家 積水ハウスフェロー 河﨑由美子氏、と インテリアシステムや家具に詳しい 生活空間研究室代表 中村孝之氏をお迎えして、最近の住空間提案の取り組みから家具産業に向けたお話をお伺いしていきます。



<積水ハウス フェロー 河﨑由美子 氏 子育て世代に向けた「モンテッソーリな家づくり」が人気>

――最初に、河﨑さんにお話を伺います。最近の積水ハウスでの住空間提案の取り組みについて教えてください。

河﨑 2024 年夏からの取り組みとして、子どもとの接し方やそのための空間提案をまとめた「積水ハウスのモンテッソーリな家づくり」が、子育てファミリー層から人気を得ています。当社は、子育てファミリーに必要な空間づくりを、「子どもの生きる力を育む住まい」という根本理念のもと、約30年研究してきています。子どものための安全・安心を基本にしながら、家族みんなの居どころや、自分の居どころの在り方についての研究開発を行い、子どもの発達段階にあわせた子ども視点の空間提案をしています。「子どもの自ら成長する力を存分に発揮できる環境を整える」という”子育ち”の視点を大事にした空間提案です。

モンテッソーリとは、20世紀初頭のイタリアの医学博士で幼児教育者であるマリア・モンテッソーリが提唱している教育法のことで、子どもを観察して発達段階に合わせて遊び広げていこうという考えであり、まさに当社の“子育ち”の考えと同じところから出発しているのです。モンテッソーリ教育を推進・PRされているあきえ先生に共感いただき、子どもの接し方や育て方のヒントと一緒に発信していただくことで、子育てファミリーにも当社の考えが届きやすくなることを実感しています。

――具体的にはどのような要素を空間に採り入れられているのでしょうか。

河﨑 「積水ハウスのモンテッソーリな家づくり」では、知っておくべき14 のシカケをカードにまとめて、公式ホームページで公開しています。たとえば、「子どもイドコロ04.子どもの心が成長する収納のあり方」では、子どもの遊び場にもなるピットリビングに造作したベンチ下収納を紹介しています。遊ぶ場所の中におもちゃをしまう場所を、決めておくと子どもも自分でお片付けしやすくなります。このように「積水ハウスのモンテッソーリな家づくり」では、子どもが自分で物を片付けられること、自分でやりたいことを見つけられること、を大切にしています。

当社が全国5ヵ所に設けているライフスタイル提案型のモデルハウス「Tomorrow’s Life Museum」の中にある、「子育てファミリーの家「小林さんち。」では、子育てファミリー層向けの最新の暮らし提案を見ていただくことができます。モンテッソーリ教師のあきえ先生にも見ていただきお墨付きをいただきました。「小林さんち。」は、来場者に一番人気のあるモデルハウスです。

――最近ではインテリア提案として、「life knit design」を打ち出されていますが、どのようなものですか。

河﨑 「life knit design」とは「デザインの思想」です。まちづくり、外観からインテリア、庭の提案に至るまで住まいづくり全体に関わるものです。その中でインテリアではお客様の感性を映し出す空間をご提案します。積水ハウス独自に考案した「6つの感性フィールド」を入り口としてお客様と対話を始めます。感性フィールドの研究開発にあたっては、デザイン専門部署が約6,600 点の画像を分析・言語化・分類し、長い時間をかけて試行錯誤を重ねました。そして、2023年の夏からお客様にご提案しています。

「life knit design」では象徴的な空間として、オリジナルデザインのテキスタイルを中心に、暮らしにまつわるプロダクトのデザイン活動を行うミナ ペルホネンとのコラボレーションモデルハウス「HUE(ヒュー)」も公開しています。

Tomorrow’s Life Museum 山口 HUE

――「life knit design」では、家具以外にどのような商品を提案するのでしょうか。

河﨑 「life knit design」のインテリアでは、床や壁紙・キッチンなど、住宅の内装すべてについて提案を行っています。2022年には無垢木材のインテリア材を中心とした木質建材の輸入・企画・製造・販売を手掛ける株式会社マルホン、2023年末には「家具蔵(KAGURA)」ブランドを展開しているオーダーメイド木製家具メーカーの㈱アイダがグループ会社として加わり、さらに提案の幅が増えています。

――最近は収納スペースを重要視されるユーザーが増えてきているそうですね。積水ハウスではどのような空間に収納を設けることが多いのでしょうか。

河﨑 リビング、玄関、寝室の3ヵ所には、ウォークインタイプの収納を作ることが多いですね。当社では、「リビクロ(リビングクローク)」「シュークロ(シューズクローク)」「シンクロ(寝室クローク)」の3つのクロークを合わせて「収納三姉妹」という商品名をつけました。特にリビングまわりの収納問題の解決が重要です。収納量を調査すると、リビングに収納が足りないという声が多くあります。しかしながら、通常はリビングには壁が少ないので、家具も置けず収納も設けることが難しいので、敢えて、収納のための専用スペースとしてウォークインタイプのものを開発しました。そうすると、収納量を確保するだけでなく、クローク内は一覧性があるので、家族みんながどこに何があるか分かりやすく、かつ、リビングにインテリア映えする壁面を作り出す効果もあります。またシンクロも家族みんなのクロークとして1ヵ所にまとめることも、若いファミリーでは多くなっています。家族お揃いコーディネートが増えていることを反映していますね。

――特注の造作家具などを組み込まれるケースも多いのでしょうか。

河﨑 壁掛けテレビの周辺で、造作が増えています。テレビを壁に埋め込んだり、テレビ下に棚や収納を床から浮かせるように造作したりして、テレビ周りをすっきり見せるなど。広いリビング空間のなかに、個人のためのちょっとした居どころをつくるベンチや本棚の造作提案もよく見かけるようになりました。

――ウォークインクローゼットなどの流行により収納家具が減ったということをよく耳にします。他に例えば、ソファや椅子、テーブルなどの造作家具を希望されるお客様は増えているのでしょうか。

河﨑 たしかに。衣類収納に対する造作は、寝室附室のウォークインクローゼットで済ませることがほとんどです。一方、他の空間では家具よりの造作が増えてきています。

例えば、キッチンセットに連続するダイニングテーブルや、ベンチシートを作りたいというニーズは増えてきています。窓の下や窓に面する造り付けのソファーベンチは、誰にとっても居心地の良い空間です。造り付けソファの場合、木部だけでなく、ソファのクッションのサイズをうまく合わせるためのノウハウも必要です。ウォールトゥーウォールで空間にぴったりとはまるように作りたいものです。

これからの注文住宅は、生活行為に必要な床面積確保や設備提案をするだけはなく、人生100年時代の家族に寄り添いながら、居心地の良い居どころをどう提案していくのかが、重要になっていきます。わが家を世界で一番幸せな場所にするために、これからも一人ひとりの居どころづくりを丁寧にサポートできるような住宅メーカーでありたいと思っています。

――積水ハウスの最近の住まい空間づくりに関する貴重なお話をいただきました。ありがとうございました。



<生活空間研究室代表・日本インテリア学会理事 中村孝之 氏 一人ひとりの暮らしに寄り添う「インテリア」提案を>

――続いて、中村さんにお伺いします。中村さんは、積水ハウスでの研究開発などを経て、現在はご自身で立ち上げられた生活空間研究室の代表を筆頭に、家具業界のコンサルティングなど多岐にわたりご活躍されています。これまでの話に加えて、空間設計の視点から、家具産業に向けたお話をお伺いできればと思います。

中村 近年の新しい取り組みとして話題にあがった「life knit design」は、感性にフィットする空間を提案するとのことですが、私からは、積水ハウス勤務時代の経験も交えて、少しインテリアシステムができた頃の経緯を振り返ってみたいと思います。

「life knit design」導入以前は、「SHIC」というインテリアシステムを導入しており、床板の色など、シンプルな空間コーディネートをベースに考えていました。40年以上前からの運用ですが、当時は市販の建材の選択肢が少なく、コーディネートの概念がまだなかったので、多くの建材設備をオリジナルで開発することから始まりました。ちょうど当時の通産省がインテリアコーディネートを推進した時代でもあり、住宅事業の中でインテリアを提案する仕組みを作りあげていました。

――なるほど。基盤となるインテリアシステムがあったのですね。では収納の話題がありましたが、当時は、ウォークインクローゼットはどうでしたでしょうか。

中村 積水ハウスでウォークインクローゼットというプランを作り始めたのは、私がインテリア開発を始めた当初のことなのです。その時代には、居室にはビルトインクローゼットを設けることをマニュアル化したことも影響して、その頃から家具産業はタンスが売れなくなってきていたという背景があります。ちょうどクローゼットを開発する際に、海外のインターリュプケなどのシステム収納が日本に入ってきて、ハンガーパイプと棚と引き出しで構成されていましたので、積水ハウスの住宅にもそのようなものを設ければよい、とヒントを得て、建材メーカーとの共同開発で収納システムを作り始めました。1980年代には建材メーカーがタンスに代わる収納商品をラインアップしました。

ウォークインクローゼットを住宅に採り入れ始めたことで、この設計手法をリビングや玄関のクローゼットなどに活用することが可能となりました。したがって、別売の家具を購入しなくても、予め住宅プランの中に収納を組み込むことができるようになりました。キッチンや水回りと同様、収納もすべてビルトインすることで、積水ハウスとしての生活提案と商材をセットにしてきたという経緯なのです。

――その流れで、収納家具の出番が減っていったのですね。家具産業へのヒントとして、河﨑さんからは、住まいに造作するソファーベンチはノウハウが必要というお話がありましたが、中村さんはどのようにお考えでしょうか。

中村 一般的にホテルなどの宿泊施設では、ベッドや椅子は家具メーカーなどから購入されるケースが多いのですが、例えばかつての赤坂プリンスホテルは、黒川紀章氏の設計で窓辺にベンチシートが設けられていました。造作家具か置き家具にするかは、建築家からすれば「自らがデザインすることができるのか、選ぶのか」という大きな違いになります。インテリアデザイナーとしては、全て自身で設計したいという方が多いでしょう。しかしその方が使い心地が良いとは限らない。大抵の造作ベンチより家具メーカーとのソファの方が心地良いです。そのため、空間を家具からの発想で作っていくことが、これからの家具業界の発展に向けた一つの道筋だと思っています。

――空間を家具からの発想で作っていくとは、どういうことでしょうか。

中村 住空間を作っていくということは、注文住宅の場合はそのお客様に合わせて設計していくわけですから、河﨑さんが言われたように「人の居どころをどう作るのか」ということがテーマとなります。「居どころを作る」ということは、「ここにこの椅子を置けば良い」というわけでは決してなく、そこに住まう人の動作や生活行為、生活作法を含んだ領域を作るわけです。したがって個々のお客様の生活をしっかりと見据えた上で空間として提案していかないといけません。このような居どころ空間の提案は、家具メーカーや家具販売店は充分行えていないと感じています。

これをしっかりと行っていくためには、人間から考えるインテリア計画のアプローチを理解しなければいけません。お客様一人ひとりの居どころを作り、豊かな生活を実現しようとするためには、「最も体に近いところから順番に作っていく」という発想が大切です。体に最も近いものと言えば衣類ですよね。その次に体に近いのは家具なのです。文房具や食器なども体に近いですが、これらを使うには既に家具があってこそ成り立つものです。したがって、衣類の次に体に近い家具から、空間計画に広げていけばいいと思います。使い勝手や雰囲気の設えです。

――家具は人に近いインテリアなんですね、家具産業のインテリアへの取り組みについてアドバイスをお願いします。

中村 日本の家具メーカーは、世界からいい銘木を取り寄せ、腕利きの職人の方々の手によって製品が作られているわけで、これは建材メーカーではなかなかできません。しかし、インテリアデザインとは別の世界で「プロダクトデザイン」されていて、住まい空間の「インテリア」にしっかり関わることができていないのではないでしょうか。私は、良い家具を作ることができる企業が、インテリアを手掛けるオートクチュールになればいいと思っています。オートクチュールとはフランス語で「高級な仕立て屋さん」という意味ですが、実際に衣類の仕立て屋さんはお客様の体のサイズを測って、そして合わせながら服を作っています。そして住まい空間において、「life knit design」では、積水ハウスがこのような取り組みを実践し、オートクチュールの役割を果たし始めているわけです。

――しっかりと、ユーザー一人ひとりの生活に向き合わなければいけないということですね。

中村 多くの日本の家具メーカーの工場を拝見すると、高いものづくりの技術が整っていると思います。ですから各メーカーが、積水ハウスが取り組んでいるような「インテリア作り」に上手く関わっていけると良いと思います。それなのに、家具産業は性質上、やはり製造業であり小売業です。建築業とは業態が異なり利益の出し方も異なるため、なかなか設計施工の業界に入ることが難しい業態ではあります。

しかしながら、衣類の次にお客様の体に近いところにいる製品を作る業界なので、既製品の置き家具か造作かの違いはあまり問題ではなく、一人ひとりの生活を叶える産業であってほしいです。その違いは、お客様にとっては問題ではないわけですからね。

私はアクタスのリノベーション事業開発に携わりましたがその際、アクタスが取り扱う家具とアクタスで製造できる造作や仕上げを組み合わせた空間提案を行う仕組みを作りました。良い素材の家具には、無垢床板や天然木の建具や造作が必要なのです。「良い無垢材の家具に合わせる床は、建具は、キッチンは、収納は、そしてディテールはどうするのか」と連鎖して考えることにつながります。



――家具から発想してインテリアができていくということを、家具製造・販売を手掛ける企業がより意識していかなければいけないということですね。最後に、よりよいインテリア空間づくりに向けた業界へのメッセージをお願いします。

中村 家具産業では、インテリア建材も含めて空間全体の提案力をさらに高めていってほしいと思います。自社でリノベーションを手掛けたり、建築系の企業とコラボしたりといった取り組みなど、多様な切り口があるでしょう。日本のインテリア教育は、木材工芸から発展しました。ですからプロダクトだけでなく、インテリアにも高い木工技術を投入してほしいですね。

いい材料を使い、技術のある職人が人間の細かな姿勢動作を考えてモノづくりをする家具産業にこそ、インテリアをオートクチュールする権利があると考えましょう。

河﨑 そして、お客様一人ひとりが主役の空間を作っていくという意味では、テキスタイルをより活用して、アクセントウォールのようなものを作ることもできるでしょう。木材だけでなくファブリックを活かした壁面空間とインテリアといったように、様々な製品の特長やアイデアを融合していくのも、暮らしの活性化につながるのではないかと思います。

――本日は多岐にわたり、お二人に住空間と家具業界についての様々なお考えと取り組みをお聞かせいただきました。ありがとうございました。

(聞き手 佐藤敬広)