【建築家インタビュー2025】note architects一級建築士事務所 代表 鎌松亮 氏 事業拡大視野に法人化 増大するコントラクト・リノベ市場に注力

東京都江東区に拠点を構えるnote architects(ノートアーキテクツ)一級建築士事務所が、この1月に事業拡大を視野に入れ法人化した。同社の鎌松亮代表に、昨今のインテリアのトレンド感や同社の得意とする建築空間について聞いた。

――この度の法人化を受け、今後の展望についてまずお伺いできますか。

鎌松 これまでの事業案件において、全体の約9割が住宅リノベーション案件でした。リノベーション以外にも分野を広げていきたいと考えた際、新築かつ住宅ではないものに手を伸ばしたかったのです。したがって今後は、ToCも大事にしつつToBにも事業を広げていきたいと考えています。手掛けていきたいのは主に飲食店や商業施設です。面白いことに、現在は住宅案件の依頼がなくアパレルショップや銭湯の改修、茶室など、店舗系の仕事が多くあります。 

――例えば、商業施設の設計というところで、躯体はもちろんのことだと思うのですが、いわゆる内装に関してはどのレベルまで携わられるのでしょうか。

鎌松 ケースバイケースではありますが、店舗系・飲食店だと、備品家具のセレクトまで手掛けるかどうかはその時々によって異なります。住宅も店舗もおそらく一緒だとは思うのですが、せっかく内装を整えたので、工事外の家具もデザインしたものに合わせたいということで、セレクトしてほしいというご依頼もありますね。特に多いのはカーテンの選定などです。

――例えば、家具もセレクトしてほしいという依頼があった場合、代表自らが選定されるのか、別途協力企業の方が選定されるのか、どちらになるでしょうか。

鎌松 その選定については、私自身が行うことになると思います。これまでは家具については、自身でデザインしたものは無いのですが、ゆくゆくは手掛けていきたいと思っています。

――家具メーカーとのコラボのようなことにもご興味がおありですか。

鎌松 そうですね。仮に家具のデザインをして、製作できたとしても、流通についてはメーカーの方が詳しいと思っています。デザイナーや建築家は工場も持っていないので、お互いのwin-winで上手くコラボレーションできたら面白いなとは思います。家具については、これまでは、付き合いのある工務店さんに紹介していただいた特定の造作家具屋さんに手掛けていただいているケースが多いです。

――顧客のニーズを捉えるために、どのような提案・ツールを用いていらっしゃるのですか。

鎌松 お客様とイメージを共有するために、「ピンタレスト」というアプリを活用しています。まずお客様に、理想のイメージ空間の写真を、アプリ上に集めていただきます。例えばご夫婦の場合、それぞれがお選びなる空間のテイストの差なども、これによって把握することが可能です。アカウントがそれぞれ設けられていて、ピンというフォルダをお客様と私などで共有します。したがってお客様が集めたイメージも見ることができますし、私が提案用に集めた画像もお客様と共有できます。

――このアプリを活用することで、よりお客様のイメージが把握しやすいということですね。

鎌松 設計中も、 例えば私が設計の参考にキッチンのイメージ画像などを集めて共有すると、お客様サイドもその画像を見ていただくことで「このような感じで設計のイメージをしているのだろう」と思っていただくことができます。それにより、言葉では伝わりにくい定性的な部分の意思疎通を図りやすいこともポイントですね。ピンタレストには質の良い事例が集められています。もちろん、私やお客様が投稿した写真なども保存できます。

――施工事例のPRなどは、SNSを活用されていらっしゃるのですか。

鎌松 WEBのほかには、主にInstagramですね。この2つをご覧になってお問い合わせいただくケースが多いです。

――これまでに手掛けてこられた物件について、比較的住宅リノベーションを多く手掛けていらっしゃったとお伺いしていますが、どのような空間設計を得意とされているのでしょうか。

鎌松 あまりゴツゴツはしていない、柔らかなテイストにどうしても仕上がってしまうので、自然とそのような空間に仕上げていくことが多いです。今までのキャリアの中でもそのような作品が多いですね。

最近はやはりナチュラルテイストが好まれる傾向で、モダンなどのワードは出てきません。トレンドでは「ジャパンディ」などが多く好まれている傾向かと思います。打ち合わせのなかで「ジャパンディ」というワードは出なくても、お好みとして「ジャパンディ」なイメージのものがやはり集まってきます。もちろん、若いお施主様などから一枚板テーブルのご要望を受けるケースもありますが、ここ1年はジャパンディや北欧ライクなご要望がとても多いです。

――少し話は変わりますが、新築着工戸数が減少している中、実務の中でそれをお感じになる機会はあるのでしょうか。また、リノベーション需要についてはいかがでしょうか。

鎌松 新築着工数は「減少しているらしい」といった感じで、とりたてて実感はないですね。影響があるのはほとんどが大きな企業だと思います。私どもは新築案件が年に数件ほどなので、新築着工数減による影響は感じていません。

しかしながら、リノベーションについては、都心に事務所を構えていることもあり、案件は多いと感じていますし、これからもどんどん増えてくのだろうと思います。この近辺で戸建てを建てたいという方で、土地探しから始めたケースの場合、やはりその土地がみつからずに断念するということが多いです。良い条件のものは真っ先に業者の方が購入するようで、個人の方はそのスピードに追い付けない。そのような背景もあって、結果的にリノベーションという選択肢になることが多いようです。その流れはおそらくこれからもどんどん加速し、都心での価格が高騰するにつれ、郊外の方にも需要が広がっていくのではないかと思います。

――費用面では、新築と比較してどれほどリノベは安価になるのでしょうか。

鎌松 新築と比較すると、戸建てフルリノベーションの場合7割から半分ほどに抑えられます。したがって、抑えられた部分の費用を違う箇所、たとえば内装にお金をまわす方もいらっしゃるでしょう。リノベーションを得意とする建築家は増えてきていると思います。デザインのレベルも上がってきていますし、様々な事例、チャレンジが増えていると感じています。

――建築のための情報収集として、様々な企業のショールームに行かれることも多いのですか。

鎌松 そうですね。カタログだけ見ても、実際にそれを採用できるものなのかどうかは、私自身の目で見てみないとわかりませんからね。ショールームもそうですが、家具の工場も行ってみたいと思っています。作っている現場を見て、どのような工程を経て製作されたのかを知ることで、建築の新たな発想にもつなげることができます。新しい技術や知らなかった技術など、それを活用してこんなデザインをしてみたいなど、発想の源となるからです。

カタログから選んだだけでは、他の人も真似できてしまいます。建築家としては、やはりオリジナルのものを作りたいものです。それぞれ個々の建築家がデザインで勝負していますから、差別化の要素も必要となります。

去年、ある家具職人さんに教えていただいたのは、突板の技術です。それまで私は、同じ木目が横に並び縞々に見えてしまうため、突板を敬遠していました。しかしながら、訪問した際に自然な色合いになる方法の情報を教えていただいたおかげで、突板を使うことに抵抗がなくなりました。突板で 自然な表情を表現することができれば、コストを下げつつ使える樹種も多くなり、ひとつの空間に多種多様な樹種が混在することで同じ木のインテリアでも、深みが変わってくるわけです。

新しい発想・想像が、家具工場に行き情報を得ることで可能になります。その積み重ねにより、デザインの差別化に 繋がります。自分の発想だけではなく、やはり作り手との会話が大切だと思います。会話で生まれてくるものはたくさんあるでしょう。

――最後に、改めてPR等をお願いします。

鎌松 一般的に、建築家とは「よくわからない存在」であるかもしれませんが、私は完全にオーダーメイドで、お客様が求める暮らしがより良くなるようにという視点で設計しています。一般的なハウスメーカーさんなどよりは多少費用は高くなるかもしれないですが、やはりそれは「本物を造っていきたいから」です。オーダーメイドにより、その後の生活も一変させることができると思っています。

素材と色と、建築。手掛けることができる要素は非常に多いと思いますし、だからこそ内装に合う家具選びや、オリジナルの照明のデザインなども行うことが可能です。トータルコーディネートをワンストップで行うことができることが利点ですので、お気軽にお問い合わせいただければと思います。

――ご多忙の中、多岐にわたりお話しいただき、ありがとうございました。

(聞き手 佐藤敬広)