三菱地所レジデンス(東京都千代田区)が手掛けるリノベーション事業「リノレジ」。同社では2030年までに、2019年比でCO2排出量を50%削減することを目標としているが、「リノレジ」においても省エネ性能設備への更新を進め、2024年度の着工戸数においてZEH水準省エネ住宅、省エネ基準適合住宅の達成率が50%を超えた。

昨今のZEHの要望の高まりについては、国土交通省や関係省庁より、2025年4月以降の新築住宅で「省エネ基準適合」が義務化され、さらに2030年度までに省エネ基準がZEH水準まで段階的に引き上げを目指す通達がある。このため同社でも、住宅に対する省エネ・省CO2化について対応の必要性を強く認識しているという。同社では2015年にSDGsが採択される以前から、地球環境への配慮・持続可能社会を意識した取組みを継続的に実施してきた。
2022年1月には、三菱地所レジデンスとして「CO2排出量削減戦略」を打ち出した。削減戦略の一つとなっている新築分譲マンション・新築賃貸マンションのZEH水準の標準化は達成しているが、GX志向型住宅などについて新たな基準が国から示されているため、更に上位の水準を目指すとしており、リノベーション事業においても、継続してZEH水準・省エネ基準の達成を推進する方針だ。
高効率型のガス給湯器が、省エネ基準達成の鍵
省エネ基準(ZEH水準)達成の為の取り組みとしては、リノベーション工事の際に高効率給湯器、節湯型水栓、高断熱浴槽、LED照明等を採用していることなどが挙げられる。給湯器はその中でもポイントの一つであるといい、その性能がいかに高いかという要素がランニングコストの低減にもつながるようだ。窓に関しては、アルミサッシで複層ガラスであることも重要であるとし、場合によって内窓を設置することもあるようだ。現在、同社が取得している物件の築年数平均は20年弱。今後は必要に応じて断熱改修も検討するようだ。
設備の導入だけではなく、エビデンスとなる省エネ性能算出にあたっては設計事務所、評価機関との連携も重要であるといい、リフォーム工事にあたっては、対象の住宅や、マンションがどのような性能をもっているかを、工事前、設計当初の段階から確認するという。ベースとしてどのような性能を備えているかを調査した上で、設備工事で追加する。
需要の高まるリノベーション事業
同社は2013年にリノベーション事業に参入。以降、取引件数は2000戸を超えており、事業は順調に推移している。これまで住空間の選択肢は、新築と中古マンションしかなかったところに、新たにリノベーション済マンションが加わり、この認知も高まってきているという。同社は新築マンション分譲が本業ではあるが、リノベーション事業も重要な事業の1つとなっている。
同社のリノベーション事業は「買取再販事業」として中古区分マンションを購入し、リノベーションを施し、完成後に顧客に販売するスタイルだ。築年数や物件特性・ターゲット等に応じて必要な箇所に適切なリノベーションを施しており、他業種やインテリア会社等と協業した取組も行っている。

インテリアについては、新築物件のスタイルに近付けているとし、昨今のトレンドをおさえた内容としている。同社の柴田誠司グループマネージャーは「フローリング材や建具、クロスのカラーの選定は、物件のエリアなどターゲットの想定に合わせて、新築分譲マンションのイメージに寄せていくように意識しています。お客様からみて、“他のマンションと違うよね”という差別化のためです」と語る。また、同社の加藤智里プライムチーフは、「物件特性にもよりますが、高級感を重視する物件であれば、廊下のタイルなども採用することもあります。新築とリフォームは使用できる商材が異なるため、リノベーションで使いやすい商材を使っています」と話す。
新築分譲仕様の「アイズプラスカラー」にもとづく内装
リノベーション案件での、床・壁・天井等のカラースキームについては、同社のリフォーム担当者と施工会社で選定している。新築分譲事業ではミラノサローネ等の市場調査を実施し、最新カラートレンドも踏まえて定期的に改定し、「アイズプラスカラー(EYE’S PLUS COLOR)」を標準カラーとして制定している。リノベーション事業でも、「アイズプラスカラー」を参考にして標準カラーを作成し、これをベースに物件特性に合わせてカラーを選定している。一部の都心高額物件においては外部のインテリアコーディネーターに依頼する例もあるようだ。
家具を設置する場合は、ターゲットに合わせたインテリアを家具リースの協力会社と考えて提案。グループ会社であるメック・デザイン・インターナショナル社によるコーディネートサービスも案内しており、照明器具から家具まで取り揃えることができるサービスだが、新築案件でこのサービスを利用する顧客が多いという。
リノベーション市場について柴田氏は「伸びている上昇カーブのようなものは、急にあがっている感じではないが、少しずつ右肩あがりであるという印象です。参入障壁が低く、中古マンションがベースであることから、内装のノウハウさえあればできるビジネスでもあります。しかし特にコロナ以降、価格高騰があり、工事費自体も高止まり傾向です。体力のある業者でないと、継続的に手掛けることが難しくなるのかも知れません。」と話す。
今後のエンドユーザーの予算感とトレンドについて、同社が取得対象とする中古区分マンションは、都心エリアを中心に新築時を上回る価格で取引されている。新築分譲マンションは好立地案件の取得競争過熱、建設費高止まりの影響から供給数が限られており、その結果として高額になる状況であるため、顧客のニーズにマッチした物件を求める層が一定数存在すると認識しているようだ。これまで同様、アクセスの良い場所が好まれている傾向にある。
同社では、内装に関しては単にリフォームするのみならず、顧客にとって付加価値向上となるテーマの検討・採用も進めている。取組の1つとして、三菱地所が開発した総合スマートホームサービスで「HOMETACT(ホームタクト)」の採用例では、デジタルリテラシーに関心の高い顧客層から反響を得ているようだ。リノベーション事業が推進する省エネ性能設備採用は、顧客にとって建物のハード面のみならず、住宅ローン減税制度では控除額優遇が受けられる政策支援、経済的メリットもある。今後も積極的に省エネ性能を可視化して開示し、顧客とって付加価値の高い、快適に暮らすことが可能なリノベーション済マンションの提供を目指すとしている。
(佐藤敬広)